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東京地方裁判所 昭和32年(ヨ)4081号 決定 1958年6月30日

申請人 菅野昭一 外一名

被申請人 日本都市交通株式会社

主文

申請人らの本件申請をいずれも却下する。

申請費用は申請人らの負担とする。

理由

第一、当事者の求める裁判

申請人ら代理人は被申請人が昭和三二年九月一七日申請人らに対しなした解雇の意思表示の効力を停止する。

被申請人は申請人菅野に対し金二一三、一五七円及び昭和三三年五月以降本案判決確定まで毎月二八日限り金三〇、四五一円の割合の金員を、申請人遠藤に対し金二一〇、六七二円及び昭和三三年五月以降本案判決確定まで毎月二八日限り金三〇、〇九六円の割合の金員を支払えとの裁判を

被申請人代理人は主文と同旨の裁判を求めた。

第二、解雇の有効無効に関する当事者の主張の要旨

一、申請人らの主張

(イ)  申請人らは旅客の運送等を営業目的とする被申請人会社に運転手として雇われていたところ昭和三二年九月一七日懲戒解雇の意思表示を受けた。しかし懲戒解雇に相当する理由は何もないので右解雇は権利濫用として無効である。

(ロ)  申請人らは会社に勤務する運転手らで組織する日本都市従業員労働組合の組合員であつて、申請人菅野は書記長、申請人遠藤は組合機関紙の編集責任者で活発な組合活動家であるところ、被申請人は右組合活動を嫌悪し、暴力行為に藉口して企業より排除したものであつて、右解雇は労組法第七条第一号、第三号に該当する不当労働行為として無効である。

二、被申請人の主張

被申請人が申請人らを解雇した理由は次のとおりである。

昭和三二年九月一三日会社保有の自動車四輛を廃車し他の自動車と代替するため廃車四輛の登録番号標板(ナンバー・プレート)八枚を取り外して代替手続のため陸運局に返納すべく担当課長舟生恵一に保管させていたところ、同日午前七時四〇分頃組合委員長高橋朗は不当にもこれを持ち去ろうとしたので会社の営業部長山本記八、労務担当部長児玉光晴はこれを取り戻そうとしたのに対し申請人らは他の組合員と共に右両名に暴行を加えて標板奪取に加勢し、これにより高橋は標板奪取の目的を達して組合事務所に持ち去つたため車輛の代替業務を不能にして会社に損害を被らせたばかりでなく、右暴行により山本は頸部、腰部に挫傷等治療十日間を要する傷害を、児玉は治療一週間を要する左上前膊挫傷を受けた。そして会社と組合間には昭和三二年一月一七日締結の労働協約があつて、申請人らの右所為は懲戒解雇条項である第一一条第一四項の故意過失により会社に重大な不利益を与える行為をしたとき、同条第一九項の正当の理由なく職務上の指示命令に従わないとき又は不当に自己の権限を超えて独断の行為のあつたとき、同条第二二項の会社の職制に定められた上司に不当に反抗したときに該当するので、懲戒解雇したものであり不当労働行為をいわれる筋合はない。

この外の点に関する申請人らの主張事実は認める。

第三、判断

一、申請人ら主張の(イ)の懲戒解雇の有効無効の点について

(1)  疎明によれば被申請人が申請人らの非難すべき行動として主張する事実関係につき次のとおり認めることができる。

昭和三二年九月一三日午前七時過頃会社営業部第一課長舟生恵一は平常のとおり会社事務所南側出口において配車業務を遂行中佐久間工場長から当日代替を予定されていた会社の車輛四台分のナンバー・プレート八枚の保管を託されこれを配車台の上に置いていたところ、高橋委員長から代替になる車輛番号を聞かれたので、その番号を告げ、なお組合員に配車になるのは再生のマスターであるので車種に変更のないことを説明したのであるが、同委員長は突然これを預るといつて右プレートを抱え、二三歩立ち去つた際、偶々出庫状況の監督のため現場にいた山本営業部長に目撃され、同部長から代替のため陸運局に返納するのだから返してくれと要求されながらも強引に持ち去ろうとしたので、同部長は高橋から右プレートを取り戻した。ところが高橋は腕を同部長の首に巻きつけプレートを奪い返そうとし、更に同部長は組合員庄子賢信のため後からはがい締めにされ行動の自由を束縛されたので、高橋に右プレートを奪い取られたが更に高橋からプレートを奪い返した。しかし多数の組合員が高橋に加勢して同部長を取り巻いたので、同部長はプレートを抱えてその場にしやがんだところ、組合員山崎潔から腰をけられ同神鳥菊次から右大腿部をけられたので身の危険を避けるため逃れようとしたが、申請人菅野は逃げられないように同部長の前に立ちふさがり右肘を同部長の左首すじに当てて同部長の行動の自由を抑圧した。一方事務所においてこのさわぎを知つた児玉労務担当部長は山本部長を応援するために現場にかけつけ申請人菅野、高橋と山本部長の間に割つて入ろうとしたところ、申請人遠藤は児玉部長の背中を引つぱつてその妨害をした。その間に高橋は山本部長からプレートを奪い取り、これを山崎に渡し、同人は組合事務所の方に走り去つた山本部長は更にこれを追つて行こうとしたが、申請人遠藤はその前に立ちふさがり同部長の胸の辺に右肘で体当りするような体勢で突き当てた。そこで同部長は少しよろけたが更に追わんとしたけれども児玉部長からこれ以上やれば身に危険だからやめようといわれ事務所に引きあげた。

右暴行は多数従業員の面前で行われたのであるが、これにより山本は頸部、腰部等に治療十日間を要する挫傷等を、児玉は治療約一週間を要する左上前膊挫傷を受けた。

右認定に反する疎明は採用しない。

(2)  ところで疎明によれば会社、組合間に被申請人主張のような労働協約が締結されていて、その第一一条には従業員が左の各号の一に該当する場合には懲戒解雇又は諭旨解雇に処する。但し情状により軽減するとあり、その第二二号に会社の職制に定められた上司に不当に反抗したときと規定されていることが認められる。

よつて申請人らの前記所為が右懲戒事由に該当するかどうかを考察する。

申請人らが山本、児玉両部長に対し前記のように有形力を加えその行動を抑圧したのは両部長が高橋からプレートを取り返そうとしているのを知つてこれを妨害し又はこれを取り返して保管しているものを高橋が奪い取ろうとしているのを知つてこれに加勢しその奪取を容易ならしめる目的に出たものであることは前認定事実に照し容易に推認できるところであるので、申請人らは職制上の上司である両部長の職務遂行を暴力により故意に妨害したものであつて、右にいわゆる上司に不当に反抗したことに当るのは勿論行為の態様に照し職制に対する軽蔑の意思を表明して職場の秩序を甚しく紊乱したものであつてその情状は重大という外はない。

この点について申請人らは、会社はこれより先組合に対してマスター旧車をクラウン、コロナ新車に代替するにつき、その賃金歩合を提示したが、組合はその歩合が労働者に不利であつて実収入の低下と労働強化を生ずるとの見地からこれに反対し交渉を重ねていたところ、本件事故直前である昭和三二年八月組合はコロナについては歩合率には不満であるが新車であるので他社の実績によつてはこれを認めてもよいとの見解から向う一ケ月間実績を参考にして改めて協議することに会社との合意が成立し会社は組合の諒解なくコロナの代替をしないことを協定したのである。しかるに会社はこれに違反し事故当日組合に何等の相談なく突如コロナへの代替を強行しようとしたので、これを知つた組合側は会社の不信を憤り、委員長において緊急やむを得ない措置として前記プレートを組合に保管するため実力を行使せざるを得なかつたのであつて、本件紛争は会社の誘発したもので組合には責任がない旨主張する。

しかしながら会社が組合の諒解を得なければコロナへの代替をしないとの協定をしたことを認むべき疎明はないばかりでなく(この点に関する甲第一号証の記載は信用しない)疎明によれば本件の廃車四台はコロナ三台とマスター再生車一台に代替されるものであつて、コロナ三台は組合員でない従業員に割り当てらるべきものであり組合員の担当車はマスター再生車に代替を予定されていて、本件代替によつて組合員の労働条件には変動がないので、会社はこれにつき組合の諒解を得る必要はないと考えていたのでありこのことは高橋委員長がプレートを持ち去る直前に舟生から同委員長に告げられたことが認められるので、同委員長が会社において組合員の労働条件低下を無視し一方的に代替を強行しようとしていると信じたのは甚しく軽卒という外なく、その他舟生の言明がその場を糊塗した虚偽のものと信ずるのが相当と認むべき疎明は何もない。

してみれば前記紛争の誘因を会社のみに帰せしむべきであるというに足りないし、高橋委員長のプレート持ち去りが組合側の緊急やむを得ない措置と認めることもできないので、申請人らの主張するプレート持ち去りに関する組合の意図は申請人らの前記所為の情状上斟酌するに価しないものといわざるを得ない。

以上の認定に徴すれば、会社が申請人らの前記所為をもつて協約第一一条第二二項に該当するとして懲戒解雇の措置に出たのは相当というべきであつて、解雇権を乱用したものというに足りない。

二、申請人ら主張の(ロ)の不当労働行為の点について

疎明によれば申請人らが会社の運転手らで組織する日本都市従業員労働組合の組合員であつて、申請人菅野は昭和三一年八月闘争委員に、同年一二月執行委員に次で昭和三二年二月書記長に選任せられ申請人遠藤は昭和三一年七月以降組合機関紙編集責任者であつていずれも活発な組合活動家であること、会社の従業員は組合の脱退者を含め二十名位で昭和三二年九月二日頃親睦会を結成したが、これより前同年八月末頃組合員鴨原、幸川、井上、西山らは会社の磯鉄夫専務、児玉、岡田、山本、各部長と連絡し、組合に対抗するため親睦会の結成を画策したことが認められるので、会社は組合よりは親睦会の発展を希望していたものと推認するに難くない。

そして申請人らの解雇と同時に組合員庄子、神鳥、山崎らも暴行の責任を問われて解雇されたので(高橋委員長は既にその以前に解雇された)組合がこれにより相当の打撃を受けたものと推察されるけれども、会社が平素からこれらの者を特に嫌悪していたとの事情については何らの疎明はなく、また庄子、神鳥、山崎らも本件紛争の際山本、児玉らに暴行したことは前に認定したとおりであるので、申請人らを含むこれらの者の非行によつて惹き起された職場秩序紊乱の重大性を考慮するときは、会社がかかる行動に出る従業員を職場より排除して他を戒めると共に職場秩序を保持するために解雇の決意をなすに至つたことは首肯できるところであり、したがつて、前記のように会社が組合に好感をもつていないことを考慮に入れても、会社がこれら従業員を解雇したのは、その非行を決定的理由としたものと認めるのが相当であつて、会社の右措置が暴力行為に藉口したに止りその真意は組合活動を嫌悪し又は組合の団結阻害を目的としたものと認めるに足りないものというべきである。

よつて本件解雇が不当労働行為であるとの申請人らの主張は採用し難い。

三、以上の次第で本件解雇が無効であるとの主張は認められないので、本件申請は本案請求権の疎明を欠く不適法のものとして、これを却下し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 西川美数 大塚正夫 花田政道)

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